こちらの記事は「風の祈りと旅人の歌」読了後にご覧いただくことをオススメします。
本編の内容は承知していただいている前提の話で、ネタバレなど配慮していませんので、ご注意ください。
あとがきというよりはメイキングでしょうか。
どういう風に物語を作っているのかとか、何を考えているとか、そういう話ができたらいいなぁと思っています。
ので、作品として表現できたものが全てでそれ以上の蛇足は受け取りたくないという方は、読まない方が良いです。
あとがきなんて自己満足だからね!
続きをよむからどうぞ。
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つづき
今回の物語はるいさんからいただいた何かしらのお題を元にプロットを練ったはずなのですが、今となっては元々のお題がかなりうろ覚えです。
「北風と南風」「壊れたギター」+αだったような……?
楽器が出てくるのなら折角なので、楽士のパンくんをお借りしようというのが始まりです。
季節によって風が変わる岬や洞窟、祈りの歌の要素はこの段階で既に考えていました。
そして主人公のサハルトですが、当初の構想ではもっとさっぱりとして思い悩まないタイプの青年でした。
一番シンプルなプロットだとサハルトがパン(と彼が連れていた風の精霊)に出会い、感動してスランプを脱するだけの話でした。
サハルトは漁民の意見はあまり気にしておらず、彼らが何を言おうと自分は自分のやりたいようにやる。見事やり遂げて連中をびっくりさせてみせるから、パンにはそれを見届けてほしい!くらいの勢いのある男でした。
私のかく物語の登場人物は、斜に構えて物事を見たり人生に後ろ向きだったりする根暗が多いのでコラボするときくらいは前向きなキャラクターを書こうとしたためです。結局、いつも通り悩み多き若者になりましたが、サハルトはとりわけ暗い過去や辛い事情を抱えているわけでもない、至って平凡な青年です。
パン・セジーラというキャラクターが「自由と孤独」あるいは自由ゆえの孤独を意識したキャラクターだということは聞いていので、最終的にはそれと対比する形で作っていきました。
港の人たちはよく言えば情に厚く親しげなのですが、悪く言えば不躾で図々しい態度で接してきます。望むと望まざるとにかかわらずガトバルの街の一員であるサハルトは、孤独ではないが自由でもない存在です。
冒頭、峠を越えるサハルトが海の匂いを嗅ぐシーンと最後の怒鳴るような声で歌うシーンだけは初めから決まっていました。
反対にそれ以外は全く決まっていなかったので、パンのガトバル滞在中の行動には色々なパターンがありました。説明ばかりが一箇所にまとまるのを避けるためにパンがガトバルの街を散策したり、みなとうたいの洞窟に冒険に行ったり、街の人と会話するシーンをいくつか考えており、みなとうたいの洞窟のこと、異国の楽器のこと、サハルトの事情などはその中で徐々に明かされていく予定でした。
パンがサハルトの事情を知ってから、実際に歌いに行くまでに一晩時間を空けたり考え方の違いで喧嘩になったりもしています。
冗長になってしまうのとうまく描写できなかったこともあり、大半はカットされました。本編中で「夜鳴きの鶏亭」の名前の由来が語られなかったのも、そのせいです。
ああ、この発言回収してないなと思ったのですが、あとから無理やり会話にねじ込むほどのものでもないし、整合性がない部分も生の人の会話っぽくて好きだったのでそのままになっています。
徐々に明かされるバージョンだと、サハルトはいく先々であまり触れられたくないことに言及されるのでストレスが酷そうですね。あんまりしつこくされるとギスギスしてしまいそうだしカットしてよかったと思います。
・バヤル
サハルトの隣室の住人。バヤルの荷物を片付けるなら彼も立ち会うのが自然なのではと思い、登場させるつもりでいた。
肉屋で働いている豪快な男で、屋台でソーセージを売っている。パンとサハルトの昼食のホットドックは彼からの差し入れになるはずだったもの。
街の人間だが漁民ではないので、みなとうたいの件に対してそこまで強引でも切実でもない。中立(だが街の人間よりの立場と無遠慮さで)みなとうたいとサハルトの事情について教えてくれる役回りだった。
重要でない登場人物(名前あり)を増やしてもしょうがないので、なかったことにされた。同様の理由で、「夜鳴きの鶏亭」の店主の名前も作中では出していないのだが、店主二人は名乗ってしまった方が書き分けが楽でよかったかもしれない。
・ロバ
サハルトが冒頭、荷を負わせていたロバの行方。
サハルトの部屋には家畜を飼うスペースもなく、繋いでおく場所も用意されていない。街について荷物を下ろした直後にロバは売り払っている。
元々、サハルトが長く飼っていたわけではなく一つ前の街で買ったもの。レンタカーに近いノリで郊外に売り買いをする業者がいる。旅人は必要に応じて騎獣や駄載獣のやりとりをする。
やりようによっては多少儲けを得ることもできるが、基本的には買値の七割程度の値で売れたらいい方だろうか。
もちろん一頭を相棒に据えて長く旅を共にする場合もあるが、その場合ロバよりも馬が好まれる。
・黒パン?
お気づきになった方はいるかどうか。この話に黒パンが出てくるのは無理があるというわけではないのですが、実はちょっと変です。
どんな気候帯の場所にするかを物語の中盤あたりまで迷っていたせいで、暖かい地方と言っておきながら冒頭の食事シーンに寒冷地方の食べ物である黒パンが出て来ます。
海の向こうでは作っているでしょうからきっと小麦を輸入したのでしょう。そういうことにしておいてください。
他の食事は魚介を煮込んで作るズッパやクロックムッシュ、ミラノ風カツレツをチャバタに挟んだりなんかしてるのをイメージしていました。お腹が空きますね。
・夜鳴きの鶏亭の店主
兄弟で店を切り盛りしており、兄(うるさい方)は既婚者です。
一切の問題も不和もない家庭など存在しないという持論の元、彼らにも彼らなりの事情が設定してあります。
ガトバルの街で一番サハルトと気があうのは弟(喋らない方)でしょうか。彼は余計なことは聞いてこないし口外しないので、悩んでいるサハルトにとっては居心地のいい存在です。彼は彼で、他人にとやかく言われることの不快さをしっているので、サハルトに対して思うことがあっても何も言いません。
サハルトが深夜遅くにやって来たのにも、実は昔馴染みに根掘り葉掘り聞かれたくない(特にそれをパンに見られたくない)という隠れた理由があります。